NPO・NGOは多数あって、その中でもホームレス状態の方や生活に困窮されている方の支援をおこなう団体も多数あるが、それらは一部をのぞいて、いわゆる「ソーシャルベンチャー」的な事業展開であったり情報技術による効果の最大化のようなことが、比較的進みづらい分野なのではないかと思う。
理由はいろいろと考えられ、ひとことではいえない。
扱っている問題が非常に重い歴史的経緯をはらんでいること。「受益者」からお金を取ることが基本的に難しいこと。メインプレイヤーの高齢化もあるのかもしれない。単純に社会問題として(子どもの貧困などに比して)「人気」がないこと。などなど。
ただ、社会全体の困窮度の複雑化と偏在が進むと同時に、権利意識や当事者意識の分断が進んでいる状況で。
直接的な受益者(困窮されている方)に対して、「複雑化=コストをかける」支援ニーズを満たすためにも、直接的な受益者以外にも問題へ関心を持ってもらうためにも、何らかのイノベーションは必要なのではないかと思う。
現実的な話、大多数の人間は「貧困」や「ホームレス問題」などは自分には(関係する直前まで)関係がないと常に思っているわけで。
まずは目新しい仕掛けによって「新しそう」でも「楽しそう」でも「面白そう」でも構わない、あらゆる手段をもって関心を呼び込んでいく必要があるんじゃないだろうか。
大阪・釜ヶ崎で支援活動を続けるNPO法人Homedoorはそういった意味で意欲的な展開をされている団体だ。個人的にその活動はウェブ等で見知っていただけだったのだが、去る6月19日、今回初めて東京で事業報告会を開催するというので参加させていただいた。
報告会冒頭、まずは理事長・川口加奈さんのお話。
ご自身の体験から、Homedoor立ち上げに至った経緯について。親に「釜ヶ崎へいってはいけない」と言われたことに逆らって、ボランティアを始めたこと。その最初のボランティアで炊き出しに並んだ方から「孫みたいな年齢のあなたから命の綱であるおにぎりを受け取る野宿者の気持ちを考えて渡しなさい」といわれて、そこから考えはじめたことなど。
そのあと、2015年度の目標と成果について、事務局長・松本浩美さんからの報告。
今期の目標だった「雇用枠の拡大」「シェルター設営の準備の実施」「困窮者へのアプローチ方法を増やす」「企業と生活困窮者のマッチング」の4つについては、それぞれ達成したとのこと。
特に、比較的若い層からのネットカフェからの相談が増加傾向にあり、前年から実施していた「ネットカフェチェーン店のポータルサイトへの相談バナー掲載」に加え、同チェーン店内に相談チラシやポスターの掲載も順次開始するとのこと。
「高齢者はネットカフェに泊まったとしても、PCをあまりみないから」とおっしゃっていたが、正直それは盲点だった。
そして、もともと当事者としてHomedoorと出会い現在はスタッフとしてご活躍されている方とのトークセッションを挟んで、事業展開の今までとこれからについての説明。
アイスクリームブランドの「BEN&JERRYʼS(ベン&ジェリーズ)」とコラボし、柱事業である「HUBchari」の名をつけた新フレーバーと自転車ミニチュアを製作して広報展開。
まさかのアイスクリーム!
来期からの新規事業としては、リサイクルショップと提携しての家具バンク。
家電や家具の寄附をいただくが、団体内でそのまま保管し続けることはスペースの問題があり、難しい。
これを、提携したリサイクルショップに売却し、査定額から手数料を引いた形で寄附してもらう形で保留、支援に繋がっている方の必要な家具はそこから購入する形にするというもの。
自転車修理&レンタルサイクルによる仕事作り事業である「HUBchari」も、貸し出しの際ICカードを用いて自動化・機械化していくとのこと。
そして「HUBdeli」。
2014年4月に「CRIMELESS」という事業アイディアでGoogleインパクトチャレンジを受賞したものの、業界内でいろいろと議論を呼び、再検討。結果アプリを介しての出前サービスという形になったとのこと。
飲食店を横断する形で出前を受注することで仕事作りをおこない、地域コミュニティの活性化も担う。提携するお店にはビジネスチャンスとCSR的な宣伝メリットがある。
細かい仕組みはわからなかったのだが、おそらく出前版「Uber」のようなものを指向しているのではないかと感じた。
始動は来年になるとのこと。
以上、やはり新規事業が目を引いた。
Homedoorの支援スキームが中間就労ベースなので、目新しい「仕事作り」をスタートアップ事業として立ち上げつつ、それにCSRとして他の企業を巻き込んで事業展開していくのがモデルなのだな、という印象。
いわゆる支援対象者に対する「仕事作り」というと、どの団体も比較的単純作業が多く、目新しいメニューは少ない。
支援される側のスキルに大きなギャップがあることが予想される中で、彼らが仕事として実行可能で、かつ社会的なインパクトを与えつつ、加えて一般的な「市場」でニーズがあるものを立ち上げ続けるというのは、正直容易なことではないだろう。
(普通、社会的なインパクトを与える事業は、その構成員に高度なスキルを求めるのが普通だろうし。さらにここに当事者の真のニーズとのマッチングの難しさや、業界特有の歴史的背景の重さも加わるわけで)。
上記を満たしつつチャレンジをするのは相当の難しさがあるだろうし、実際苦戦している部分も垣間見えるけれど、それでもそこへ至ろうとするHomedoorのチャレンジは素直に面白いと感じた。
冒頭のくり返しになるが、ニーズが複雑化し、かつ大半の人間が貧困に無関心な状況で、それらを超えて問題を解決するためにはイノベーティブなチャレンジは必要なことだと考える。
個々の事業の是非に議論はあるだろうが、多数の「現在は仲間ではない人間」をいかにプレイヤーとして巻き込めるか、それを重要視する姿勢は見習うべきだろうと思った。
Homedoorの報告会を聞いて、その断崖へ果敢に挑戦していく熱量を、まず何より感じた。
彼らの試みが、どのようにスタートし、内輪を超えた共感の輪をどこまで広げていけるのか、個人的にとても期待したい。