だいしろぐ

大志郎の日記。面白い人の話を聞いたり、アイディアの備忘録も兼ねて

墨田区で「ことといこども食堂」を一年間やってみて。立ち上げの模様&反省点など

墨田区ことといこども食堂が一周年を迎えて

2016年3月24日から墨田区で、こどもでもひとりであっても誰でも食事に来ても構わない「墨田区で最初のこども食堂」として、「墨田区ことといこども食堂」(運営母体:一般社団法人つくろい東京ファンド)がオープン。
第二・第四木曜日の18時~19時30分を営業時間に、現在まで休みなく活動を継続している本プロジェクトのコーディネーターのひとりとして、立ち上げから現在まで関わっている。

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スタートから一年たち、私達の活動を知って「自分たちも墨田区でこども食堂をはじめたい!」という方の見学や相談もいくつかいただいた。また、食堂の運営体制が変化したこともあり、当時の記録を兼ねて「こども食堂を立ち上げる時にやったこと」を個人的な反省点をふくめてまとめてみた。

プロジェクト開始のきっかけ

本プロジェクトはもともと「住んでいた家が事情があって数年空き家となるのだが、その間こちらを活用しませんか?」と、家主の方から運営団体にお声がけいただいたことから始まった。

二階建てのきれいな家を見ながら「じゃあどうやって社会問題を解決するために活用しようか?」とアイディア出ししていく中で、比較的若い層の低賃金・都市部の高家賃という問題に着目。個人的にも低収入野郎として全くひとごとではない問題だったので、その解決の一助とするべく「空き家を活用した個室型シェアハウス」という方向性が固まった。

「こども食堂」については、やはりその家の広いリビングを見ながら「せっかくなので地域にひらかれた場所にできないだろうか?」と考えた時に、自然と浮かんだ。
運動的な背景としては過去、墨田区の中学生がホームレス状態の方に集団で襲撃をおこなった事件があり、その遠因のひとつとして、襲撃に参加した子どもが貧困状態におかれていたという事実があった。
この問題にコミットできないだろうか。ざっと調べてみると墨田区内でいわゆる「こども食堂」はまだないらしい。ならば……。

そのような思いから、空き家を活用したシェアハウス(ハナミズキハウス)+こども食堂(墨田区ことといこども食堂)を立ち上げるプロジェトが具体的に動き出した。

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資金面での調達方法など

立ち上げ時のイニシャルコストは、事業体としての資本を前提として、クラウドファンディングをおこなった。こちらはおかげさまで目標金額を上回る形で無事成立。

motion-gallery.net

こども食堂運営にかかるランニングコストについては、スタッフは全員ボランティアベース。食材費としては(一般住宅のリビングなので)最高20席・20食前後と考え、一食予算500円として計算。月2回の一年間24回で、年間約240,000円という雑な目安をたてた。(実際には野菜などを有志の方からいただけたり、調理を担当してくださるコーディネーターの方のご尽力もあり、一食のコストはもう少し下がっている)

こちらについてはお客からの代金+助成金でまかなうことにして、初年度はパルシステム様の「地域づくり基金」を申請・助成をいただいた。(下記にも書くが、ことといはお客から代金をいただかない形になったので、助成金は大変助かった)

information.pal-system.co.jp

公的機関とのやりとり(食費衛生課・福祉課)

オープンが確定し、道筋がある程度ついた段階で、墨田区食品衛生係(墨田区役所5階)へこども食堂開設許の可や届けについてご相談にうかがった。
「空き家を活用したシェアハウス」を会場に設定した段階で、一般的な飲食店の営業許可を取得できるような改装が難しいことは確定していた。ただ、他の区における実績で、いわゆる「有志のコミュニティカフェ」のような月二回程度の小規模な催しでは飲食店許可は不要(食品衛生管理者の常駐など衛生面での配慮は前提として)という運用を認めていただいていた。
ので、今回もその線でお願いできれば……とのつもりだった。

が、相談初回はあまりいい顔をされなかった。
プロジェクト当初の計画では「こども:無料 おとな:300円」(一般的なこども食堂の料金体系を踏襲)を設定していたこともあり「墨田区では『コミュニティカフェ』のような区分はとっておらず、料金を徴収するなら開催回数や社会的意義に関わらず、飲食店営業許可が必要と認定される可能性が高い」という解答をいただき、正直かなり焦った。
その日の相談の終わりに「改善可能な点は全てやります」とお伝えし「社会的意義は感じていますので、内部で検討し、後日連絡します」とご返事をいただき結果、

  • 改善点として、完全非営利とし、大人もこども同様無料とする(低額とはいえ、料金の徴収は飲食店経営と見なさざるを得ない)。
  • 食費衛生課へは「給食施設」として届け出・登録をし、さらに初回の利用者の方には連絡先等を書いて「利用者登録」していただく形をとる。(「不特定多数」という形を避け、万が一の時にはご連絡できる体制とする)。

このような改善案をいただき、全面的に従う形で開催を認められる運びとなった。(本当にほっとした)

また、やはりオープン前の段階で墨田区生活保護課(墨田区役所3階)にもお知らせし、可能なら周知していただけないかというご相談もおこなった。こちらについては、課でご担当されてる方が子どもや高齢者の貧困にとても関心のある方だったこともあり、熱心にお話を聞いてくださり、今現在も継続的にやりとりを続けさせていただいている。

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準備・人員

毎回のメニューは調理担当をしてくださるコーディネーターの方に決めていただき、この方を中心に2・3名で全体の調理を担当。ささやかな食堂なので、会場の掃除・セッティングも含めて、慣れてしまえば4名程度で十分運営することが出来た。
毎月第2・第4木曜日の3時30分から準備し、18時にオープン。19時30分終了し、片付けなどで21時頃活動を終了している。

広報・近隣への周知・ネットワーク

広報活動として、自団体のウェブサイトや区のサイトへの掲載は当然として、リアルのご近所まわりをおこなったが、これがかなり難航した。
コアメンバーがこの地域に生活拠点を持っていないので、あらゆる場所が「いちげんさん」となる。チラシを作り、町会や近隣の児童館施設、小学校などにご挨拶にうかがったが、当初はなかなか手応えが掴めなかった。

予想はもちろんしていたのだけど、地域支援を落下傘的にチャレンジするのはなかなか壁を感じることが多い。
他の「こども食堂」の場合、すでに地域で学習支援などの一定の活動をされていることが前提にあったり、活動はしていなくとも地域に生活基盤のある方が旗振り役を務めることがほとんどだと思うので、これは私達の特殊性ではあるのだろうとは思う。
このあたり、今も続く「こととい」の課題だ。

活動的なネットワークとしては、池袋で多数のこども食堂を運営されている「NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」さんにはいろいろとアドバイスをいただき、その流れで「こども食堂ネットワーク」に参加させていただいている。
実際、上記の営業許可に関することについてはこちらのメーリングリストでアドバイスなどもいただいた。また、「こととい」はいただいていないが企業などからの食材寄附情報なども定期的に流れている。
(と改めてこども食堂ネットワークのウェブサイト見たら「こととい」載ってないー! なん…だと…(涙))

toshimawakuwaku.com

kodomoshokudou-network.com

雑感とか反省点とか今後とか

場所や人について

前述の通り「墨田区ことといこども食堂」は「場所先行」「理念先行」でオープンした部分があることは正直否めない。
コアメンバーが同区・同地域に生活基盤を持っていないこともあり、さまざまな意味で(食堂をとりまく空間を含めて)場所をホールドしづらかった。
もちろん難しいし、無い物ねだりではあるのだが、単なる「ご飯をたべる食堂」とは違う「居場所」として十全に機能させるのなら、自分でホールド≒コントロール化における場所で展開することを考えるべきだろうと思う。(こども食堂を自宅開催している方も割に見るけれど、そういう意味では最強だなよな、と)

また、これは自分も含めてだが、一回きりではない継続的な活動を担保する上で完全ボランティアベースでのコミットをお願いするのは結構厳しいこともあるな、とも思った。(まあ、これはこども食堂に関わらず、日本の市民運動の宿痾ではあるが)
他の手広くやってらっしゃるこども食堂の運営では、コアにコミットしてくださる方に謝礼をお支払いしているところもあり、理想をいえばそのような体制の方が安定するに決まっているのだが……(助成金、人件費の支出に厳しいところ多すぎだよなー)

だから、過去・そして今、継続的に関わってくださっている方・くださった方々には感謝しかない。

運転資金について

「場所」と「人」の確保の大変さに比べて、立ち上げのコストや、食材費・チラシなどの広報費、あるいは食材そのものの調達は(あくまで比較の問題だが)容易なように感じる。
やはり「子ども支援」関係の助成金バブル感がすごい。いろいろと突っ込みどころがあった「子供の未来応援基金」をはじめ、自治体・民間で多くの助成金が応募されているし、見た感じ募集要項も緩い。
(申請書式が1枚~2枚とか、法人格がなくとも任意団体および個人で募集資格があるものも散見)。

「よいことなのか?」と問われると微妙だが(かつてニート支援バブルとかありましたね)、志がある人のハードルはかなり低くなっている。加えて、クラウドファンディングの手数料もプラットフォームによってはかなり下がっているので、小回りが利くようにはなったとも感じる。

子どもがいない(単身)男性で「こども支援」に関わろうとする居心地の悪さ

個人的にこのプロジェクトに関わろうと思った大きな動機として、「チャンスあれば、いつか子ども支援に関わりたい」と思っていたことが大きい。学生の頃、知人経由でチャイルドシッターのバイトを短期間やらせてもらってすごく楽しかったなど、どちらかといえば子どもが好きな方ではあるのだろうと思っていた。

実はふらふらしていた頃、そのような志を持って住んでいた地域の図書館の「児童書読み聞かせボランティア養成講座」というものに応募し、参加したことがある。私だけが20代の男で、まわりは現役子育て中の女性かリタイア後の女性だらけという環境で、読み聞かせやストーリーテリングについてかなり本気で勉強・練習した(暇だったから)。
正直、「同期」の中でかなり上手い方だったと思う(なにしろ暇だったから)。が、受講後にボラティア登録したいと申し入れをした折に、「やはり男性は……」という旨を(かなり迂遠に)いわれて断られた。

まぁ、そうだよなー、と思う。(断りの文句が本当だとして)、「子育て経験のある『おかあさん』」の方が、「子どものいない(独身)『男性』」よりあらゆる意味でリスクが少ないだろう。そりゃあ(運営側としては)そうだろうな、とは思う。
ただ、それをやられてしまうと、そもそも「子どもと本格的に関わる」という回路が「プロになる(保育士など)」か「自分の子どもを持つ」以外にないという状況になり、なかなか釈然としないな、と思ったことも事実だ。

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このプロジェクトの関わりの中でも、やはり「子どもがいない(単身)男性であることの居心地の悪さ」を感じる場面は、正直結構あった。
当然ではあるのだが、運営側・利用者側の双方において圧倒的に「(子育て経験のある)女性」が占める世界で、立ち位置の難しさを感じる瞬間があり(具体的なエピソードをあげろ、といわれたら言い淀むのだが、なんというかまなざしの問題として)「どうしたものだろうか」と悩む部分もあった。

このあたり、同じ立ち位置の方がおられたらお話を聞いてみたい感はある。

おわりに

というわけで「墨田区ことといこども食堂」は無事活動二年目を迎え、運営体制を変えつつも引き続きお力を貸していただける方のおかげで、今期もなんとか続けていける感じではある。

この数年の「ブーム」で加速的に増加した「こども食堂」。そのことに対するバックラッシュの言説は、すでに出尽くした感もあるし、正直現場にいる人間としても(その一部は)確かに納得するところもある。また実際、さまざまな事情で「閉鎖」を選択されるところも増えていくだろうとは思う。

ただ(いろいろと問題を拾いきれないことは承知の上で)「こども食堂はいらない」「運動的に終わった」といった言説には、私としてはあまり与したくない。「現実のニーズ」および「運営側のハードルの低さ」のバランスを鑑みて、まだ「こども食堂」という「フォーマット」は有効だと思うし、少しでも「やってみたい」と思う方がおられたら、気軽にはじめてみればよいと本当に思う。
特に墨田区ではじめていただけると嬉しい(笑)。

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くり返しになるが「お金」とか「食材」とかは結構なんとかなる可能性が高いので、「(めっちゃコミットしてくれる)人」と「(コントロールが効きやすい)場所」の心当たりがついているのだけど迷っている方は、何かしらご相談にのれることがあるかもしれない。
ので、お気軽にご連絡&「こととい」に食べにきていただけるだけでもありがたい。

アクセス情報:墨田区ことといこども食堂

開催日時:第2・第4木曜日 夜6時〜7時半
場所:東京都墨田区向島5-21-6(東京メトロ半蔵門線·都営浅草線 押上駅 A3出口より徒歩10分)
地図:http://tsukuroi.tokyo/kodomoshokudou/#kototoi
最新の開催状況は運営団体Facebookページにて:https://www.facebook.com/tsukuroitokyo/

参加費:大人・こども共に無料
参加対象:幼児〜高校生・大人
※「見学」希望の方は事前にご連絡いただけますと助かります。