だいしろぐ

大志郎の日記。面白い人の話を聞いたり、アイディアの備忘録も兼ねて

「誰かのやる気スイッチを押すことは出来ないが増やすことは出来る」(湯浅誠)SmartNewS ATLAS Program2 #社会の子ども vol.1イベントに参加して

社会の子どもをいかに「社会化」するか

「対人支援」の領域は、どこまでいってもつまるところ関係性の調整だ。
「当事者」と「支援者」・「社会問題」と「世論」・「地域支援」と「広域支援」などなど利益や立場をめぐって対立/反発しがちな両者の溝を埋め、「理解」という橋を架けるにはどうしたらいいのだろうか。
どのような言葉・どのようなきっかけ・どのような態度が必要なのか、結構悩む。

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スマートニュースがおこなうNPO向けCSRプログラム「SmartNews ATLAS Program」。二回目を迎える今回は「社会の子ども」をテーマに、困難な環境にある子どもたちを支える「コミュニティユースワーカー」養成事業をおこなうPIECES(ピーシーズ)と、赤ちゃん養子縁組事業をスタートさせたフローレンスを助成団体に決定。
そのプログラムがオープンなイベントを開催するというので、のこのこ参加してきた。

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「子ども」という比較的反対が少ないであろう(自己責任を問いづらい)テーマだとしても、保育所問題や相対的貧困に対する偏見などで意見が分かれるのが難しいところ。今回の連続イベントは、穏当に問題へ橋渡す工夫として「映画」を媒介にアプローチするという趣旨とのこと。

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連続イベント第一回(2016年12月15日)の最初は「さとにきたらええやん」上映会と、湯浅誠さん(社会活動家)、柿次郎さん(ジモコロ編集長)、小澤いぶきさん(NPO法人PIECES 代表理事)、藤田順子さん(認定NPO法人フローレンス 赤ちゃん縁組事業)、ゲスト4名のトークイベント。司会は望月優大さん(SmartNews ATLAS Program)。
素敵なゲスト4人、どの言葉も心に残ったが、中でも湯浅誠さんの話がいちいち響いた。本当にエンパワーメントされた。
そんなわけで、個人的な備忘録として、湯浅さんの言葉を中心にざっくり要旨を下記まとめてみた。
(走り書きのメモなので、正確なログではないことは注意されたし)

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19時15分、イベントスタート。最初は映画「さとにきたらええやん」の上映から。
見たのはこの日で二回目で、一度重江監督が登壇するトークイベントにも呼んでもらったのだけれど、その時も今回もしみじみいい映画だと思う。
被写体との距離感が暖かい。

上映終了後、トークイベントのスタート。(以下発言は要旨。敬称略)

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これは「西成」の問題だけではない

柿次郎「(「さとにきたらええやん」の感想として)自分も大阪出身なので、映画を見ていて当事者感があり、引きずり込まれる感覚がありました。当時の自分とオーバーラップして泣きそうにもなりました。
(作中に登場・主題歌も歌う)SHINGO☆西成さんは、西成地区のいわゆるローカルヒーローなんですけれど、自分も10年前に彼にお会いしてちょうど映画に登場する少年と同じく『俺も頑張るからお前も頑張れ。いつも見ている』とと励まされて『ははー』と感動して聞いていました」

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小澤「自分も活動の中で、映画に出てきたような環境に置かれている子どもはいて、結構既視感がありました。自分が今関わっているいろいろな子どもの顔が浮かんで、意識が引っ張り込まれた感じがありました」

望月「映画の舞台となった『こどもの里』のような場所は、他の地域にありますか?」

湯浅「結構『里』はスペシャルな場所であるという感覚です。釜ヶ崎はある意味日本の課題先進地域ともいえるので、ここだからこそ生まれた場所ではないでしょうか。
ただ、同じ問題意識自体を持っている人は全国で増えていっています」

柿次郎「ここ3年くらいで、西成がだいぶ変わっていったと思います」

湯浅「変化していきましたね。現在の西成は東京の山谷のように、日雇い労働者の街というよりは、福祉の街になっています」

望月「だからこの『さとにきたらええやん』は、ある意味日本全体の話とも通じるんじゃないでしょうか」

『繋がりの中間層』の消滅

藤田「特別養子縁組あっせん法案が成立し、フローレンスでも赤ちゃん縁組事業がスタートしている中で、実際さまざまな相談が寄せられます。そこには貧困も含めたいろいろな形の困難が垣間見えます。今『育てられない赤ちゃん』を抱えている方は、実はその親御さんも貧困状態にあり、複雑な家庭に育っている場合があるという『貧困の連鎖』が背景にあるんです」

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小澤「『さとにきたらええやん』の中で、子どもに手を上げてしまいそうになると告白するお母さんを見て『ああ』と思いました。今は周囲に相談できる人がおらず、あんなふうに『助けて』といえない方が多いです。親と子が一体化してしまい、側にいる第三者といえば医療関係者か福祉関係者しかいない。『ちょっと子どもを見ていて』と気軽に頼めるような関係性をもっていない方が増えています」

湯浅「映画の母子の話は、約10年前にノンフィクション作家の北村年子さんが『カプセル母子』という言葉を使って指摘されています。閉じられた関係性の中で煮詰まってしまうんです。
こんなふうな『関係性』が減少するのは、社会の全ての層にいえるのだけれど、さらにその上に他の困難を抱えてしまう方が、社会からこぼれ落ちてしまうんです。
もちろん『つながり100点』『つながり120点』の人は今でも存在しますが、いわば今は『繋がりの中間層』がなくなっている状態だといえます。

望月「そんな風に『繋がり』が切れている人や、人生の明日に展望が見えない人が増えている中で、そういった方が『変わる』ための『変わり目』はどうやって起こしたらいいのでしょうか?」

湯浅「それがわかれば苦労しません。すぐに私の活動が終わってしまいます(笑)。本人に変化を起こすいわば『やる気スイッチ』みたいなものはあると思います。だけど、人によってスイッチのある場所は違うし、今日スイッチがあった場所に明日もあるとは限りません。だから私は『スイッチの押し方を見つけた!』といっている人を信用していません。
ただ、『やる気スイッチ』を増やすことはできると思います。どこにあるかわからないですが、一個から二個にするなどして、押しやすくすることはできます。
そんな風に、頑張る気持ちにならない人に『ちょっとやってみるか』と考えてもらうための環境を作ることはできます。『誰かが自分を見ていてくるから』という環境、固めの言葉でいうと『社会に対する信頼感』を醸成すること。
それが『やる気スイッチ』を押すことに繋がると思います。」

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藤田「(フローレンスの赤ちゃん縁組事業を通じて出会う)妊婦さんたちは『妊娠』という人生のターニングポイントを迎えています。そして養子縁組というのは『今は育てられないから、養子に出さなくてはならない』という、出す側・受ける側両方にとってのターニングポイントです。
私達はその決断を尊重します。仮に『育てたい』を思えば、希望にそって可能な限りの公的なサポートを紹介するなどしています。
そんな風に私達が相手を尊重しながら関わっていくと、最初は心が閉じていた妊婦さんも、結果的に『養子に出す』という選択をとったとしても『私は赤ちゃんの幸せのために決断をした』と自分で肯定できるようになっていくんです。
『育てることはできなくても、人の幸せを作った』のだと。」

問題に「気づいてしまった」のならやるしかない

会場からの質問「自分は今大学生なのだが、社会に対して何か貢献がしたいと思っています。ですが、何をすればいいかわからないんです」

湯浅「『いるだけ支援』という言葉があります。『さとにきたらええやん』に出てくるような場所や、こども食堂にくる子ども達の中には『大学生』自体を見たことがない、という子も実際いるんです。そんな子達に『大学生というのはこんな存在だ』と『いるだけ』で見せる。すると中には『大学生なんてたいしたことないな。自分でもなれるかも』と思う子がいるかもしれない。
『やる気スイッチ』なんて、何の拍子に押されるかわからないんです。だから『いるだけ支援』はいいですよ。」

会場からの質問「自分も、さまざまな人の中に眠る社会的資源を発見して、支援が必要な場所に届けるということがしたいんです。ただ、自分としても社会を変える力が自分の中に存在するかわからないし、そもそもフルタイムで働くなどして時間もありません。そのような人達が、どうにかして社会を変えることに関わることができる仕組みが作れないでしょうか?」

湯浅「『自分が社会を変える力があるのか』という前半の問いですが、誰にも最初はそんな力はないんです。その現場に自分を置いて、間違いを犯しつつ都度修正しながら『自分の力』を得ていくものだと思います。
あるいは、自分の力は自分自身には解らない場合もあります。他人に『あなたにはこんな力がある』と指摘されて、振り返る中で『こういうことなのかな』と気づく。
いずれにせよ、それらは能力ではなく、場の力です。
ただ、後半の『時間がない』ことについては、これは自分で確保するしかありません。」

小澤「私は『仕組み』というものは幻想だと思っています。たまたま場と出会って、たまたま問題に遭遇するような、属人的なものなんだと思うんです」

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会場からの質問「ここに集まった人は、みんな社会問題の解決に関心があると思います。今後『社会を変えていこう』と思っている会場のみんなにエールを下さい」

柿次郎「自分は『浅瀬で溺れろ』とよく言っています。遠すぎたら声は届かないし、問題も見えづらい。近くなら手を引くことができる。SHINGO☆西成の言葉を引用するなら『心配すんな、でも安心するな』でしょうか。」

藤田「『SmartNews ATLAS Program2』のテーマである『社会の子ども』という言葉に集約されると思っています。今後もこの問題に社会として関心を持ち続けて、解決のためのアクションを続けていってほしいです。」

湯浅「エールを送る方法ですが、「北風」方式と「太陽」方式の二種類あります。まず『太陽』ですが、『現場にいって試行錯誤して、実際に体を動かしてみたらいいんじゃないですか』。
『北風』の方だと、『気づいちゃったんでしょ? 気づいちゃったら、まぁやるしかないよね』(笑)。」

小澤「私は市民の力を信じています。今回出会った人たちで繋がっていければ」

望月「今回などをきっかけに、少しでも考えて、小さなアクションを起こしていけたらいいんじゃないかと思います」

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君のおでこにやる気スイッチ

日本の一地域で、スペシャルな問題がスペシャルな人と方法で解決されている先行事例を「映画」というフィルタを通じて眺めながら、それが日本全体に広がっていく現実の中で。自分達の「態度」をどのように決定するか、にフォーカスしたトークだったように私は聞いていた。

湯浅さんの言葉が響くは、前述した反目しがちな二項を繋ぐことを常に意識されていることと同時に、それについての態度を決めるのはあくまで自分なのだとぐいぐい迫ってくるからだと思う。

スペシャルな問題ではなくなった時に、もともとスペシャルではない私達を含む多くの人が、その解決のために何をするのか。
少なくとも私や、あのイベントに参加した方々の「やる気スイッチ」が押された音が会場に響いた気がした。
がっちょん。