だいしろぐ

大志郎の日記。面白い人の話を聞いたり、アイディアの備忘録も兼ねて

「女性の貧困」と「困窮予備軍」へのアプローチを考えて。女性中心シェアハウス「柏あさひハウス」の奥山たえこさんに聞く

シェアハウスに滞留する「困窮予備軍」の増加?

個人的な観測範囲で恐縮だが「福祉施策に繋がる数歩手前の方」、雑な言い方をすれば「困窮の予備軍」の受け皿にいわゆるシェアハウスがなっているのではないか?、という問いを最近思うことが多い。

  • 不安定ではあるが、仕事は続けている。
  • 低賃金から、敷金・礼金を用意することが難しい。
  • 家族関係に困難さを抱え、親族には頼ることができない。
  • けれど、友人・知人は(リアル・SNSなどを含めて)比較的繋がりがあり、コミュニケーションスキルもある。
  • だから客観的な状況では安定した住まいを失ってはいるものの、福祉的な施策に乗らないし、ご本人の心情的にも乗りづらい。

こういった「今日・明日のお金はあるが、数ヶ月先・数年先が不安」といった方が、シェアハウスに入居して生活し、そして一度そのような住まいの形に落ち着いてしまえば、同一形式のシェアハウスを「次も次も」と渡り歩き、滞留を続けている方が静かに増え続けているのではないだろうか

もちろん、仮にそのような状況であっても全く問題なく楽しく暮らされている方もたくさんおられるし、そもそもひとことで「シェアハウス」といっても運営形態は千差万別なのだが。
一方で、入居者の中に公的・民間ふくめての支援施策に少しでも早く繋がったほうがよいような状況の方が存在するということも、やはり聞こえ。
上記のような狭間にある層(特に、比較的弱い立場に追いやられやすい女性や高齢者の方)へ支援的なアプローチも可能なシェアハウスというものがあれば、潜在的なニーズがあるのではないかと考えていた。

今年(2017年)5月から柏市にて、安定した住まいを失った主に女性を支援するための女性中心のシェアハウス「柏あさひハウス」を運営されているのが、元杉並区議の奥山たえこさんだ。
2015年まで3期務めた議員時代から、一貫として貧困問題の解決・支援に関わってらっしゃる奥山さん。今回は開設したばかりのシェアハウスを見学させていただき、運営の様子と思いをうかがってみた。

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奥山たえこさん

奥山たえこさん プロフィール
1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。高校で生徒会長、大学でボート部。'81年都立大学法学部卒業。金融会社、パン屋、派遣のOL、教育・演劇系出版社等を経て、2003年杉並区議に初当選連続3期。2015年4月落選。緑の党会員・議員としては無所属。

女性中心シェアハウス「柏あさひハウス」

「柏あさひハウス」は、常磐線柏駅から徒歩7分の住宅街にある。広めの一軒家を奥山さん自身が借り、内装を一部直して2017年5月より運営を開始した「女性中心」のシェアハウスだ。現在8部屋が稼働している。

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部屋をご案内していただいた

家賃は部屋の広さや間取りによって違う。もっとも安いのは2万円。もっとも高い部屋で4.5万円。管理・光熱費が1~1.5万円程度。入居にあたっては前金・敷金礼金・連帯保証人などは必要ないという。

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部屋のひとつ。ここは和室となっていて、かなりきれいだった

女性「限定」ではなく「中心」とうたっているのは、

奥山さん「たとえばLGBTの方や、シングルマザーの方の男のお子さんについても、状況によっては対応な可能な場合があります。まずはご相談ください」

とのこと。

議員として活動される前から、生活に困窮された方の支援をされてきた奥山さん。入居された方の経済状況によっては、奥山さんが申請同行して柏市へ生活保護等の制度に繋ぐことも可能だという。
実際、都内のいくつかの支援団体経由で「相談者を受け入れてもらえないか?」との問い合わせがあったり、また実際「柏あさひハウス」経由で制度へ繋げたケースもあるのだという。

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シェアハウスは二階建て。フローリングの部屋もある

なぜ奥山さんは「柏あさひハウス」をはじめようと思われたのだろうか?

奥山さん「そもそも20年以上前から杉並区でホームレス状態の方の支援をしていました。しかし、そんな活動の中で路上で出会う方に『福祉へ繋がりませんか?』と勧めても、路上生活が長ければ長いほど繋がりたがらないということに、よく遭遇していました。ただ、じっくりお話すると(安定した住まいが用意されれば)本当は屋根の下に住みたいという気持を持っていらっしゃる方も多かったのです」

「また、ホームレス状態におちいるのは人数的には男性の方が多いでしょうが、状況の深刻さは女性の方が高いと感じていました。加えて高齢者の住まいをとりまく問題も気になっていました。私も現在の年齢になって、そろそろ個人で新たに物件を借りづらくなっていると感じています。杉並区議を務めていた時代でも、貧困問題・ホームレス問題は私のテーマとして、年に一回は質問をしていました」

「このような問題意識から、落選後に社会的起業のようなことをしようと思い、さまざまな支援の形を考えた結果、やはり『住まいがなきゃ」と立ち戻りました。そこで、住まいの問題を解決する『ハウジングファースト支援』の一助として、このような形のシェアハウスをはじめました

このような動機から現場支援に踏み込んだ奥山さん。だが、物件探しには苦労したという。

奥山さん「空き家はすごく増えているといわれていますが、シェアハウスをはじめることが可能な造作や部屋貸しを許可する物件はほとんどありませんでした。かなり探していたところ現在の場所を見つけ、大家の方にも私も活動に賛同してもらい、10年契約で借りることができました」

行政や支援団体からは繋がらない「新たなニーズ」

こうして5月にスタートしたシェアハウスだが、奥山さん自身、当初想定していた入居者ターゲットからの変化を余儀なくされたという。

奥山さん「はじめる前は『今日・明日にも1000円ぐらいしかなく、お金がなくて入れる場所がない』というような方が入居者に多いのではないかと思っていました。しかし、実際に運営をはじめてみると、支援団体や行政経由ではそのような方に繋がれる機会は、想定以上に多くありませでした」

「そこで『もう少し繋がる経路を増やせないか』と思い、試しに無料広告掲示板の『ジモティー』( https://jmty.jp/ )に掲載してみたら、すぐに問い合わせがいくつか入ったんです。『仕事を探しに地方から東京を目指している方が、怪しい物件も多数ある中、信頼出来るシェアハウスを探している』という方などが、運営者の身元などの情報開示をちゃんとしているということでこちらへご連絡いただいているようでした」

冒頭のくり返しになるが、今現在公的な支援に繋がるほどでもない(繋がらなくても人間関係の繋がりで助けてもらえる)が、安定した住まい・仕事を失っている層が増えており、そのような方々の受け皿にシェアハウスが決して小さくない役割を果たしているのではないか、という推測が個人的にある。
そこには、単純に敷金・礼金が用意できないから通常のアパートを借りられないという方だけではなく、警察などがすぐに動いてくれないレベルでの隣人トラブル・騒音トラブル・DVなどの被害に遭い、住んでいた場所を脅かされてしまったといった、現状の施策でのセーフティーネットでは掬いきれない方が暮らし、移動する手段としてシェアハウスを使う方も少なくない数含まれているのではないかと考えている。

奥山さん「(ジモティーなどを見て繋がってくださるような層を含んだ)生活困窮者の需要は、支援団体や行政経由だとなかなか接点が繋がりません。特に行政経由では、シェアハウスをはじめる時に柏市の生活保護課へも話を通し、その時は繋ぎ先としても喜んでもくれたのですが、現在まで紹介などはない状態です」

上記のような「困窮予備軍」を含むであろう層は、前述した「ジモティー」などの無料掲示板や、「メルカリアッテ」( https://www.mercariatte.com/jp/ )のようなフリマアプリなどで情報を集めることが多いのではないかと予想される。実際、軽く検索しただけでも「女性限定」「シングルマザー限定」などのシェアハウスは相当数見つかる。
このあたり、既存の支援団体はリーチ不足ではないかと思う。

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ジモティーには多数のシェアハウスが並ぶ

奥山さん「もちろん、無料掲示板に情報を出しているからといっても『とりあえず安くすめるところがあるから』という理由では、入居を希望される方を受け入れていません。『柏あさひハウス』については、いざとなれば支援的な施策に繋げられるのが強みだと考えています」

ひょんなことから地域デビュー

「女性の貧困」と「高齢者の貧困」が自分のテーマだと語る奥山さん。どういったきっかけで、議員時代を含めてこの問題に取り組もうと思われたのだろうか?

奥山さん「もともと普通のサラリーマンだったのですが、ちょうど労働者派遣法や男女雇用機会均等法がはじまった86年頃に会社を辞め、派遣で働きながらいろいろな本を読み、女性学の講座が大学でやっていることを知って、その聴講生をしてました。そういうことを通じて、知り合いが増えました」

そんな奥山さんの転機は38歳の頃。ひょんなことから「地域デビュー」することになったのだという。

奥山さん「高円寺に40年近く住んでいたのですが、たまたま1995年頃の地方統一選の年、知り合いになった近所の人から『選挙ハガキを送るのを手伝ってくれないか?』と頼まれたんです。『へー、選挙か』と思い、事務所へ顔を出したところ、そこから『選挙カーに乗ってみない?』『ウグイスやってみない?』と次々と頼まれて。それをきっかけに地域の人と知り合い、『地域デビュー』することになりました」

この「地域デビュー」をきっかけに、そこから政治の道を進むことになった奥山さん。「自分でも驚いている」とおっしゃるが、いわゆる普通の人が政治家となるにはもちろん苦労があったという。

奥山さん「政治基盤がないので、初当選までが大変でした。一度目の選挙は落選したのですが、その時の経験で人脈ができて、それで二回目で当選することができました。そうしておかげさまでこの前の選挙で落選するまで、三回連続で当選させていただきました」

「いわゆる『市民派議員』は、自分が得意なところは得意なんですが、財政に関する知識や決算書が読めない方もなかにはいらっしゃいます。市民活動と議員としての働きは違うので、たとえば情報公開請求などを使いこなせないとお役には立てません。そういった意味で、自分はある程度そういうことが好きで、向いていたのではないかと思います」

「高齢の女性」の住まいについてのモデルケースに

このようにご自身の志からシェアハウスを運営し、現場の支援対応もされている奥山さん。受け入れは柔軟におこなっていきたいというが、現状まだまだ広報不足を痛感しているという。

奥山さん「自分では、私財を投じてチャレンジングなことをしていると思っています。今後もいろいろな困難な状況の方の利用をお待ちしていますが、特に高齢の女性の方に繋がってほしいと思っています。高齢の女性への『住まい』のニーズは本当にあると考えているんです。自分がやっていくことで、そういった方を支援するモデルケースを作ることができればと思っています」

自分としても、困窮された方は一義的には公的施策に直接繋げていくことが原則だと考えるが、しかし貧困が一般化した中で「公的施策に繋がるほどでもない・法律も急には対応してくれない・けれど困っている」という狭間の方のニーズの増加は無視できるものではないし、対応していく必要があると感じている。
そのレイヤーへの支援にも、果敢に飛び込んでいく「柏あさひハウス」の試み。ぜひ応援したい。

女性中心のシェアハウス「柏あさひハウス」利用方法&連絡先

入居者は現在も随時募集中。利用されたい方は、まずはお気軽にご相談下さいとのこと。
間取りやアクセスの詳細は、下記リンクのウェブサイト参照。

柏あさひハウス(住まいは人権、女性中心シェアハウス。千葉県柏駅7分,家賃2万円〜。高齢者/収入の不安定な人/子ども連れ歓迎) | Just another WordPress site

●奥山さんの連絡先
電話&FAX:03-3315-2155
携帯電話: 090-9147-8383
Twitter:@okuyamataeko

twitter.com

※不在がちなので、ご連絡は携帯電話かメール・Twitterにお寄せくださいとのこと。