だいしろぐ

大志郎の日記。面白い人の話を聞いたり、アイディアの備忘録も兼ねて

えらいてんちょうは何故生活保護について書いたの? 言及された支援団体の方と一緒に聞いてみた

東京都豊島区要町に「イベントバーエデン」という小さなバーがある。
「発達障害」や「メンヘラ」、「気功」「緘黙」や各種新興宗教など、比較的ニッチなテーマについてそれらの当事者が一日バーテンとして立ち、イベント形式で日夜開催されているちょっと変わったお店だ。

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経営するのは「えらいてんちょう」さん。その「えらいてんちょう」さんが最近「えらいてんちょうの雑記」というブログをはじめ、これがニッチかつアングラなネタのオンパレードで面白い。面白いのだが、その初期に「『貧困は社会のせいだ!』と信じて、生活保護申請随行のボランティアをしたら、クズばっかりだった話」というエントリーを書かれ、それが結構バズってしまった。

eraitencho.blogspot.jp

自分は「支援者側」の立場から読ませていただいて、このエントリーの内容自体は「まあ、そういう『困難な』方はよくおりますし、支援する側がそういったネガティブな感情を抱いてしまうこともよくあるんじゃないですかね」というだけで、特段特別な感想ということはない。

なにより、知人経由で「えらいてんちょう」さんが今現在も困窮されている若い方に支援的なアプローチをされていることはうかがっていたし、上記テーマイベントバーの形で(いってみれば)「社会的包摂」の居場所を試みられていることは知っていたので(実は自分も過去一度バーテンやらせてもらった)、記事のような支援を要する若者の背景にあるであろう困難さ、生育歴のすさまじさ、剥奪された&与えられなかった文化資本について理解が及んでいないはずもなく。
まあ興味をもってもらうために露悪的に書いているだろうなぁ、とは思って読み流していた。

と、初読の頃はそう思っていたのだが、あれよあれよという間に上記のような(ある種の露悪的な)文脈から切り離されつつ、有名人によって記事は拡散され、言及された支援団体のひとつから事実関係についての抗議が入るなど、にわかに運動界隈も含めてざわついてしまった。

そのような背景があり、先日、ひょんなことからその言及された団体のひとつ、池袋でホームレス状態の方の支援をを続けている「NPO法人TENOHASI」事務局長の清野さんと「えらいてんちょう」さんをお引き合わせする機会があった。

「(改めて抗議するとかではなく)ただどんな人なのか見て見たい。興味がある」とおっしゃっていた清野さん。
私としても(バーテンはやらせてもらったけど)ろくに聞いたことがない「えらいてんちょう」のお話には大いに興味があった。
どういった背景から、彼は前述のような記事を書くに至ったのだろうか? そして今の活動の背景は一体?
みたいなお話をうかがいに訪れてみたのだった。

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やってきたエデン

「TENOHASIさんはすごく尊敬しています」

普通のお客さんも2~3名いらっしゃったこの日のエデン。お会いするなりえらいてんちょうさんは第一声、
「記事ではご迷惑をおかけしました」
といきなり謝罪である。

てんちょうさん「自分も『貧困とはなんぞや』ということを考えていて、自分なりに実践し続けています。その過程で、私も支援を通じていろいろ通ってきた道があるものですから、ちょっと一席を投じておこうかな、と思いましたら、予想以上にバズってしまいまして。いわゆる『新自由主義』勢力側から『やっぱり生活保護はクソじゃねえか』という文脈で拡散されてしまった感もありました」
「TENOHASIさんのような支援活動されている団体は、すごく尊敬しています。炊き出しをしている団体は何カ所かうかがっているのですが、他の場所でのメニューはおにぎりなどで栄養バランスが偏っているところが多い。でも、TENOHASIさんのメニューはほぼ毎回野菜スープで配慮されていて、なかなか出来ないなと。そういった点でも尊敬しています」

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えらいてんちょうさん

それを聞いて「いや、よくわかってるんじゃないですか(笑)」とおだやかに清野さん。
「てんちょうさんのブログで書かれているようなことは、支援をしている上で見える『一面』の真実ではあります。いろいろな背景をもって『大変』な人は確かにいらっしゃる。でも、それを前提として、理解した上で『じゃあ、どうしたらいいかな』と一緒に考えていくのが支援なんです。もちろん、そこからうまい具合にいく方もいらっしゃいますし、いかないこともあります」

てんちょうさん「清野さんは雲の上の存在でした。TENOHASIの炊き出しに参加すると、清野さんが責任者として仕切っていらっしゃる。炊き出しが終わっても終始ひとの輪の中心にいて、話しかける隙もないくらいの方でした」

支援団体との関わり

「TENOHASIと関わったのは、何年くらい前なのですか?」

てんちょうさん「TENOHASIにお手伝いしにいったのは、3年くらい前です。すでに私は生活保護の同行支援などを独自にしていて、その中で池袋で活動されていることを知って、数回お手伝いに参加しました。配食と服を配る作業をしました」

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清野さん

「言及されたもうひとつの支援団体(NPOもやい)に関わったのはいつ頃なんでしょうか?」

てんちょうさん「もやいの方がもっと前、6年ほど前の2011年頃で、2~3ヶ月ほど関わり、当時もやいにいた支援者の方と一緒に数回、生活保護申請の同行をさせてもらったりしました。その経験と、あとはもやいが配っていた申請に関する冊子などを読んで、それで申請のノウハウを学びました」
「もやいの活動も『凄い』と思ったんですが、週1回しか開いていないじゃないですか。なので、そこからは独自に自分で支援的なことをやったほうがいいなと思いました。とはいっても、『自分から支援にいく』というよりは『てんちょうに相談すればなんとかなるらしい』と聞きつけて勝手にやってきた若者を対応するような形で。生活保護利用で施設にもいきたくなくて、アパートもなくした人を、自宅に半年くらい住まわせたりもして……サイフから金もなくなるし(笑)」
「そこから、ブログで書いたような話になります」

「えらいてんちょうの雑記」はどうしてスタートしたのか?

「どうしてブログを始められたんですか?」

てんちょうさん「ブログを始めようと思ったことについては、特に理由はないです。何か書きたいな、と思ったからですね。生活保護を中心に書こう、とも思ったこともないです」

「ブログの最初の一本は『ジモティーで時給3000円稼ぐ方法』という記事だったんですが、これはもともと『ジモティーで年収200万という本を書こうぜ』、と盛り上がった時に、よく考えたら『これで本一冊書くのは無理だろ』と冷静になり、せいぜいブログ記事一本分しかならないな、と思い直して書いたものでした。なんといっても、ただジモティー(※全国を網羅するローカル掲示板)で「譲ります」と出ている冷蔵庫をタダで貰ってきて売る、というだけなので」

eraitencho.blogspot.jp

「結局ジモティーの記事は、せいぜい1000~2000PVくらいであまり反響がなかったんですね。その次に生活保護の話を書いたら、めちゃくちゃバズりまして」
「今後も、しょぼい起業系の話や、宗教ネタや、生活保護に絡まない貧困ネタなど、自分の中で書きたいことはたくさんあります。」

イベントバーエデンについて

清野さん「(店内を見回して)こういうオシャレバーって、苦手なんですよ。なんか腰が引けるというか」

てんちょうさん「全然オシャレじゃないですよ」

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店内の様子(掲示板)

「そんなバーで開催されるイベントは特に宗教関係が充実していますよね。新興宗教関係はほぼ網羅している感が」

てんちょうさん「『怪しいもの』がある場所には、また別の『怪しいもの』を読んでくれば相殺されるかな、と考えました」

「宗教関係のバーテンはいろいろお願いしてイベントバーを主催してもらっていますが、その中でも『創価学会バー』はめっちゃ平和ですね。創価学会は関わってみて一番見え方が変わった宗教でした。みんな行儀がいいし、真面目ですね」

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カウンター内から見た店内の様子(以前バーテンをやった時のもの)

「りべるたん」の頃

現在、エデンをはじめリサイクルショップなども運営なさっているえらいてんちょうさん。その活動は、どういった背景から培われたものなのだろうか?

てんちょうさん「もともと親が全共闘で、親父からして直系で、自分は『桃太郎の代わりに毛沢東』という育て方をされました。ちょうど今の私と同じような思考をもっていたようで、親もいろいろなことをやっていて。弁当屋だったのですが、10年前、私が高校生の時分に、三年間ほど池袋駅西口の芸術劇場の前で毎日配食をやっていたんです。高校生だった私の飯もその配食でした」

「進学した大学では理論経済学、数理マルクスをやっていました。そんな大学生の折、(豊島区議選にも出馬されたことがある)菅谷圭祐や、法政大学の学生運動系の人間と親しくなって、彼らがちょっと法政大学にいられないから学外に拠点を作ろう、という話がはじまりました。それが『りべるたん』(※豊島区にあるシェアハウス・オルタナティブな共同運営実験スペース)です。当時は神楽坂の雑居ビルの一室にありました」

www.libertine-i.org

「『空間の再構築』というテーマが、今に至るまで自分はずっと課題だと思っているんです。全共闘だった親世代の頃だと、わけのわからない拠点がたくさんあったんですよ。東大駒場寮とか、早稲田の学生会館とか。でも、全部それらが潰されてしまった。若いインテリが集まるとろくなことがないと」
「『それに抗うため自主的に動かねばならん』と。そういうことで、6年ほど前、自分が20歳頃の時、月2万円づつ出し合形で、物件契約者のひとりとしてりべるたんとなる物件を借りました。その後、りべるたんは隣人トラブルもあって、池袋に移転したのですが」

世代の再生産が可能な空間を目指して

てんちょうさん「ただ、あとになって私は『りべるたんはしんどいな』と思うようになりました。いろいろ理由はありますが『シェアハウスは無理だな』、『シェアハウスは結局金が稼げない。金が稼げないと続かない』と思うようになったんです」
「要するに、自分は外で金を稼いで、自分の家は別にもっていて、その上で拠点に二万だか三万だかつぎこむという形では、原理的に拡大しない。あるいは『りべるたん』に完全に住むにしても、住んでいる人との利害と、スペースそのもののオープン性・開放性がバッティングする部分がある。それでどうしようかとずっと考えていまして」

「結論として、やはり働くことを中心にして、『働いてみんなで空間を維持する』ということが重要なんだ、ということを今は思っています。高円寺の松本哉さんがやっていらっしゃる『素人の乱』の運動にはとても参考にした部分もあるですけれど、一部反対な部分があるんです」

「松本哉さんなどは『あんまり働かなくても生きていけるよ』『働かなくてみんな楽しく』という方向がベースだと思うのですが、私自身としては『こどもが欲しい』つまり『世代的な再生産がないといけない』と考えているんです。
個人として『結婚』というのは、必要なことだと思っています。そして『結婚出来るような働く共同体』を作りたいと考えているんです。その安定性がないと、いわゆる貧困支援にはならないのではないか。『ここに来たら、みんな稼げて、儲かる』『生活していける』「子どもも望めばもうけられる』という拠点がないと、継続的に関わっていけないのではないかと」

「というような考えから、働く場として共同でリサイクルショップをはじめたのですが、ほぼ共同事業としては瓦解していました(笑) 今はもう自分しか残っていません。理由としては、シェアハウスの延長線上でストイックにやり過ぎた部分があるのではないかと思っています。みんながストイックに続けられるわけじゃないんだな、ということは昔はわからなかったのですが、今では理解しています」

「今はひとりで(エデンのほか)リサイクルショップなどを経営し、手伝ってくれる人は都度受け入れています。基本的に私ひとりが全部決断し、ひとりでやる。面白い人はついてくればいいし、離脱も自由。そんな感じで死ぬまでやっていこうかな、と思っております」

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最後は握手

「支援的」じゃない「支援」をするひとびと

といった感じで、えらいてんちょうさんのアジテーションを聞きつつも、終始和やかな雰囲気で会談は終了。
駅までの帰り道「世の中いろんな人がいるもんだ」と漏らされた清野さん。全く同感だった。

「えらいてんちょうさん」が意図し、おこなっている支援的な動きについては、もちろん(さまざまな意味での)「支援のプロフェッショナル」から見て、いろいろと言いたいこともあるだろう。あるいは、単純に「わるふざけ」が過ぎているのかもしれない。
ただ、ある種の人や場所をエンパワーメントさせるといった意味で、「支援」の文脈や方法はさまざまあってもよいのではないかと、個人的には思う。

過去のイベントで、湯浅誠さんが、「支援に関わりたいが、自分が何ができるのか、方法がわからない」と質問する大学生に対して「いるだけ支援、という方法がある。どんなアクションが(支援対象者の)やる気スイッチを押すかは解らないのだから」という旨のことをおっしゃっていたが、何が有効かわからないなら選択肢は多い方がいい。

www.dai46u.com

今後も「イベントバーエデン」はニッチな立場の方々を(露悪的に、時には悪態をつきながら)包摂し続けるだろうし、TENOHASIをはじめとした支援団体はこれからも医療や福祉制度を用いて社会的弱者に追いやられた方々を包摂しようと活動し続けていく。
それぞれのところで、それぞれ出来ることをやればいいのではないかと思うし。

そして個人的にではあるが、それらふたつの道は、そんなに離れた場所を走っているわけじゃないよな、と思った夜だった。

それぞれのアクセス情報

特定非営利活動法人TENOHASI

配食(炊き出し)は毎月 第2/第4土曜日 18:00~
東池袋中央公園にて
その他の活動・参加方法などについての詳細は団体ウェブサイトにてご確認を→ http://tenohasi.org/volunteer/information/

イベントバーエデン

東京都豊島区千早2-18-4(池袋駅徒歩20分・要町駅徒歩10分)
イベント内容は→ https://calendar.google.com/calendar/embed?src=jjl7dmes381n9kt27u225g6lr0@group.calendar.google.com&ctzs
営業情報などの詳細はTwitterにてご確認を→ https://twitter.com/eventbar_eden